RICHARD SERRA I HAL FOSTER 彫刻にまつわる対話 by Richard Serra, Hal Foster [JAPANESE EDITION]
アメリカ人アーティスト、リチャード・セラ(Richard Serra)と美術評論家のハル・フォスター(Hal Foster)による作品集。
2018年に「Yale University Press」より出版された『RICHARD SERRA: CONVERSATIONS ABOUT SCULPTURE』の日本語版であり、2023年9月より2024年1月にかけて「ファーガス・マカフリー東京(Fergus McCaffrey Tokyo)」で開催された「リチャード・セラ
Circle, Diamond, Triangle」に伴い刊行された一冊。
二者が15年以上にわたって行ってきた対談をまとめた本書は、セラの60年にわたる多作なキャリアと、その作品制作の実践に影響を与えた思想について明らかにしている。セラの人生と作品に迫り、個人的な発見の瞬間について率直な分析を加えたものであり、そして古代から今日に至る彫刻の形式にまつわる刺激的な考察でもある。セラとフォスターは、若い頃の製鉄所での仕事、音楽、ダンス、建築が彼の芸術に与えた影響、セラの美学における物質性と場所が持つ特異な性質の重要性、作品が直面した論争と矛盾、経験として捉えた際の彫刻に対する信念などのテーマを探っている。また、ドナテッロ(Donatello)やコンスタンティン・ブランクーシ(Constantin Brâncuşi)、日本庭園やマチュピチュまで、多様なインスピレーション源についても語られており、彫刻というメディアで最も輝かしい人物の目を通して、時代と文化を超えた彫刻の歴史が明らかにされる。
リチャード・セラとは1980年代初頭、ロウアー・マンハッタンのオデオンで知り合った。あのレストランがまだ辺りに住むアーティストや作家たちの集まるレストランだった頃のことである。私は20代後半、セラもまだ40代半ばだったが、彼はすでに名が知れていたので私は緊張していた。セラは鋭い論客として名高く、それも私を身構えさせた。と同時に、彼が若い批評家などと話したがるのを意外に思った。それも、あれほど夜遅くに。(オデオンに集まるのは決まって夜遅くだったが、長いバーカウンターの上に掲げられたパステルカラーの時計の放つ柔らかな光輪を見ていると、不思議と時間などどうでも良く感じられた。)
セラは当時、オデオンから数ブロック先に設置された《Tilted Arc》(1981年)をはじめとする、展示される空間に合わせて作る大規模な鋼鉄の彫刻を制作し始めた時期で、その夜も同席していたフランク・ゲーリーなど建築家の注目を集めていた。セラ自身の彫刻が近年どのような変化を遂げたかということも話題にあがったが、それよりも彼は、当時注目を集め始めていたシンディ・シャーマンやルイーズ・ローラーなど、その多くが私の友人でもあった。このアーティストたちがもたらしたイノベーションとは何か? メディアにおけるイメージのあり方に強い関心を抱いているようだが、それはポップ・アートの再生産に過ぎないのではないか? こうした批評的な疑念は、彼の闘争心の強い人柄から来るものでもあっただろうが(死者でさえセラの批判は免れないということをこれから読者諸君は知ることになる)、新しいアートについて理解したいという彼の意志に偽りはなかった。彫刻に情熱を傾けてきたセラだが、ほかの実践についても好奇心旺盛だ。この後に続く対話を通じてその好奇心を見て取ることができるだろう。
-FM FORWARDより転載
翻訳:Art Translators Collective(上竹真菜美、田村かのこ、春川ゆうき、水野響、山田カイル)、岡田英気